主催:長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

 

審査委員長 隈研吾

kuma

第10回の今回は「日本の集合住宅」というテーマだったが,「日本」を考えることは非常に難しいテーマだったと思う.応募案は,細かくデザインされている案が多く,設計の繊細さやデリケートさに「日本」らしさがあると考えているように感じた.最優秀賞の「耕す群景」は,農業を単に作物を生産するだけではなく,作物を干したり保管したりすることまで含めた時間軸の中で農業を捉えていて,それをコントロールしつつ人の生活と結びつけた優れた案だった.また,路地のような狭い場所に日本的な空間の魅力を見出している案がいくつかあったが,隈研吾賞の「奥の小路」は路地を挟んで住宅を計画しており,路地と建築の境界に注目をしているところがよかった.私は,現代のマンションなどの集合住宅において,専有部の住居空間と共有部の通路空間の境界をもっと柔らかくしていけないかと考えていて,「奥の小路」はそのような境界について考えていた点が共感できた.毎年,応募案のデザイン能力が高くなっていると感じるが,案自体は割とおとなしいものが多かったと思う.そのおとなしさが日本的だと思ったが,そのおとなしさを越えたパワーあるアイデアやプレゼンテーションがもっとあっても良いのではないだろうか.

 

審査委員 乾久美子

inui

「日本の集合住宅」を伝統という側面から捉えるのか,日本人の習慣のようなものから考えるのか,いろいろな提案があり非常に面白い結果になったと思う.最優秀賞の「耕す群景」は,作物を干すなどの農に関わる二次的な生産の風景までを生活の中に取り込んだ点が面白い.農の風景が日本の気候に密接に絡んだところに着目した集合住宅になっていた.優秀賞の「ゴミ主大家族」は,コミュニティが自然に発生するゴミ出しに着目した,とても現実的で可能性のある提案だと思う.「Physical City」は,プログラムミックスを過剰にやりがちな日本の建築文化が表現されていた.スポーツ施設と住宅を組み合わせ複合化することで,新しい日本らしさをつくれないかという意欲的な作品だった.「常の樹- 伝え紡ぐ暮らし -」は,かつての日本人が構築した路地という空間の可能性をもう一度現代で試みるもので,日本らしさを直接的に感じられる優れた案だと思う.乾久美子賞の「The Puzzle of Housing Complex」は,周辺の集合住宅のプランニングがいわゆる日本のマーケットから決まった無意識的なプランだということを使い,それを切り貼りすることで新しい可能性が広がるのではないかというコーリン・ロウのコラージュシティのようなユニークな案だった.

 

審査委員 藤本壮介

fujimoto

「日本の集合住宅」というテーマは,ある意味で凄く漠然としており,「日本」というものをどのように捉えるか応募者は苦労したと思う.入選した作品は,どれも密度が高くアイデアだけに留まらずしっかり設計されていた.最優秀賞の「耕す群景」は,農業の風景を立体化して集合住宅をつくっていて,農業にまつわるコミュニティを含めて洗練された建築のデザインであった.立体的な農業の捉え方がいろいろな場所をつくり出していて,新しいコミュニティが生まれてくるのではないかと感じさせるものだった.優秀賞の「Physical City」は,日常的なスポーツと非日常的なスポーツの施設が住宅と隣接して複合化されていて,さまざまなことが起こっていく都市的な場所という提案になっていた.「日本」とスポーツというものが一見関係なさそうに思ったが,高密度化しながらスポーツ施設と集合住宅を組み合せることは,これからの日本ではあり得るのかもしれない.藤本壮介賞の「光付く群れ」は,人工的だけども意外性を持った洞窟みたいな空間をつくる案というもので,既存の枠組みにとらわれない新しい建築の試みに挑戦していて,その点を評価したい.それがどうなっていくのか正直分からないが,ある種の新しさや挑戦をこの案から感じた.

 

特別審査委員 大栗育夫

ikegami


集合住宅において,住民がお互いを考えながら一緒に生活をして,安心・安全で快適な生活をするためには,住民同士のコミュニティをうまく形成していく必要がある.私はそのことを考えながら審査を行った.最優秀賞の「耕す群景」は,農業をテーマにかつてあったような日本の環境をつくりながら,これからの未来に何が必要かを考え丁寧に集合住宅をつくり上げていた.優秀賞の「ごみ主大家族」は,人の生活のゴミ出しという行為に着目をし,そこで住民のコミュニティを形成していくという点が面白く優れたアイデアだと思う.私もゴミを出す時の人同士のふれあいには可能性があると思っているので,この案には共感することができた.また,大栗育夫賞の「気配を纏う集合住宅」は,隣が何をしているか気配として何となく感じられることが面白い.普通,集合住宅では隣りに生活している人が何をしているのか分からないようにすることで,お互いのプライバシーを守りセキュリティーを高めているが,この案は壁を二重にすることによって内外の関係性を構築して,ゆるやかなコミュニティを形成している.その他にもたくさんの優秀な作品があったが,10年にわたってこのコンペを開催してきて,年々応募作品の質が向上していて主催者として大変嬉しく思う.

 

審査委員 池上一夫

ikegami


今回は「日本の集合住宅」というテーマだったが,少々抽象的で捉えにくかったかもしれない.しかし入選案を見ると,少子高齢化,エネルギー問題,災害,テクノロジーなど現在の日本が抱えている諸問題についていろいろと考えていた.共感できるような作品が数多くあり,審査委員一同,最後の最後まで議論を重ねて各賞を決めた.最優秀賞の「耕す群景」は,農耕民族だった日本人の原風景に立ち返り,これからの日本の集合住宅を見直していこうという提案で,干している作物が外観に見えたりと,ファサードの細部までデザインが行き届いた素晴らしい提案だった.優秀賞の「ゴミ主大家族」は,ゴミという課題を生活の身近なものとして捉え,常に住民同士で考えながら生活していくように,今後の日本の集合住宅においても考えていけるアイデアだと思う.池上一夫賞の「アノニマスな暮らし」はガラス張りの棟状の集合住宅を僅かな隙間をあけながら密集させて計画し,住民のアクティビティが外からも感じ取れるような,ある意味プライバシーをなくした新しい集合住宅の提案だった.今回の審査では,応募者の努力が感じられる素晴らしい提案が多かった.受賞者の皆様,この度は本当におめでとうございます.