共催:三井不動産レジデンシャル 新建築社
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第9回三井住空間デザイン賞
実施住戸

パークホームズ豊洲 ザ レジデンス
設計:高田幹人+冨永美保+伊藤孝仁 (tomito architecture)


高田幹人(たかだ・みきと|中)
1992年神奈川県生まれ/2014年京都造形芸術大学芸術学部環境デザイン学科建築デザインコース卒業/2014~16年tomito architecture/2016年~TAKAKEN STUDIO

冨永美保(とみなが・みほ|右)
1988年東京都生まれ/2011年芝浦工業大学工学部建築工学科卒業/2013年横浜国立大学大学院Y-GSA修士課程修了/2013〜14年東京藝術大学美術学部建築学科教育研究助手/2014年tomito architecture共同設立/2016年〜慶応義塾大学,芝浦工業大学非常勤講師

伊藤孝仁(いとう・たかひと|左)
1987年東京都生まれ/2010年東京理科大学工学部Ⅰ部建築学科卒業/2012年横浜国立大学大学院Y-GSA修士課程修了/2012〜13年乾久美子建築設計事務所/2014年tomito architecture共同設立/2015年〜東京理科大学工学部Ⅰ部建築学科設計補手

 

左上)玄関から前室を見る.引戸を開放すると部屋全体が繋がり,風が通る.左下)応募案(結果発表は『新建築』2015年6月号).右)バルコニーと連続する庭のような土間空間が住戸を巡る.土間から300mm上がった縁側のようなリビングと,左手には寝室の窓台が見える.

 


コンペ対象ユニット平面 断面
住戸専有面積:81.31m2 バルコニー面積:17.55m2


 

左)寝室の窓越しにリビングを見る.中)浴室.土間空間に対して大きな開口が設けられている.右)寝室へ続く土間空間を見る.

 

第9回 三井住空間デザインコンペ概要

「住空間デザインコンペ」は,時代のニーズにあった「デベロッパーと建築家・デザイナーとの新しい関係」を探るひとつの機会として2002年から実施.2006年に開催された第4回からは名称を「三井住空間デザインコンペ」とし,若手建築家の登竜門と位置付け,最優秀賞を「三井住空間デザイン賞」として表彰し,選ばれた最優秀案はそれに基づき実際に建設の上分譲されている.第9回の課題建物は,東京湾岸に立地する「パークホームズ豊洲 ザ レジデンス」(22階建て,総戸数693戸).提案にあたっては,「人のつながりを呼ぶ住まい」が求められた.応募登録631件,応募作品367点の中から,古谷誠章,光井純,渡辺真理,井上徹の4氏による1次審査で8組を選出.2015年4月11日の公開2次審査の結果,高田幹人+冨永美保+伊藤孝仁 (tomito architecture)が三井住空間デザイン賞を受賞し,その提案が実際に完成した.コンペ対象住戸は契約済み.

環境に棲まう

柔らかな陽が射し込み,風が穏やかに通り抜ける,庭のような余白がぐるりと回る家の提案である.カラッとした豊洲の,環境そのものに暮らしている実感が生まれる住まいを目指した.
「風通しのよい」という言葉が,空間だけでなく人の性格の表現にも使われることが示すように,光や風による「空間性」を考えることと,人の繋がりといった「公共性」を考えることは,本来同じ地平にある.「庭」という空間は,そのふたつが重なる部分と捉えた.多様な日照,通り抜ける風,点在する水場という要素に加え,人を招き入れられる動線を重ねて考えると,庭にぐるりと包まれている回廊形式が浮かび上がった.
玄関を開けると前庭と呼ばれるワークスペースがあり,趣味や仕事への活用や,気軽に人を呼ぶことができる.細長い通庭を曲がった先には大きく明るいリビングがある.キッチンに立つと背中いっぱいに自然光を感じ,振り向けばすぐバルコニーへと出られる.最も奥にある寝室から,生活の場となるリビング,キッチン,庭としての土間空間を階段状に連ならせ,近いのに遠い,遠いのに近いといった感覚としての距離を調律している.ベッドに横たわれば,インテリアから都市へと連続する大きな風景が,L字窓一杯に広がっている.
庭という空間言語を介した動線の再編によって,マンションにおける諸室と外部の慣習的な関係を書き換える.その先には,環境と対話しながら暮らす豊かさへの可能性が広がっているように思う.

(冨永美保+伊藤孝仁+高田幹人)

実施住戸を訪問して

古谷 誠章
(建築家/早稲田大学教授)

豊洲というところには独特のポテンシャルがあると思う.この案のコンペ入賞時に強く思い起こさせられたテーマだ.都心に近く利便性が高いと同時に,海を間近に感じる空気や光の明るさがある.提案が放った圧倒的な開放感と,集合住宅にいながらにして開かれた「庭」の中に暮らす感覚というのが,その可能性に説得力を与えていた.
竣工して先ごろ現地を訪問してみた.はたしてその感覚は日常を超えたものに昇華され,喩えて言うならリゾートのそれに近い仕上がりだった.しかしこれは現実に都心に間近の立地にあり,日常と非日常の境界すら撹拌されていると言ったらよいだろうか.そこに「豊洲の可能性」が端的に示されていてたいへん痛快である.特に寝室からリビングの空間,そして幅広のバルコニーに連なる「間(あわい)」とも呼ぶべき空間が,まさに夢と現(うつつ)を行き交うようでここに住む人が羨ましい.
もう一点,実現されたこの住まいを特徴付けているのが,入口を入ったところにあるワークスペースのような空間で,集合住宅の新たな「玄関」の提案となっている.かつての町家の「ミセ」と「通り庭」の現代版とも言えるこの場所では,在宅で働くこれからのワークスタイルに対してもそれに応えるものとなった.もっぱらそのための書斎のようになっていないのがよく,住み手によって多様な使いこなし方を誘発しそうでとても楽しみである.実現する上での制約が,かえって功を奏したと言えるだろう.

 

光井純
(建築家/ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン,光井純&アソシエーツ建築設計事務所代表)

今回はコンペで選ばれてから,数年の時を経て完成した実施案への訪問である.当初のコンセプト通り,住空間が回廊式の庭と縁側によって囲まれた構成となっている.2階コーナー住戸ということで天井高が最大約3m取れたことを最大活用しながら,屋内でありながら,まるで屋外にいるかのような雰囲気を巧みに実現して,通常のマンションでは得られない個性的で非日常性溢れる空間が生み出されている.そしてコーナー窓の開放感と回廊式の庭によって屋外を取り込んでいこうとする考え方は,全体としてうまく噛み合っているように思える.
さて,寝室から繋がる縁側については,窓台の高さが少し高く今回の主題である縁側との連続感がやや切れていると感じたが,これはベッドが縁側より高く,結果的に窓台が高く設定されているためである.そしてキッチンは縁側と回廊式の庭が接するところに絶妙に配置されていて,両方から使える場所に人体寸法を考慮しながら使いやすく設置されている.縁側から回廊式の庭への空間の繋がりを妨げないように,吊り戸棚は配置せず,近接する壁面収納で代用している.これに関しては,少し不便と感じる人もいそうではある.また,浴室と壁に囲まれた回廊式の庭は,玄関から室内に入った時に視線を外部まで通して開放感を生み出すことに成功しているが,一方で浴室を通り庭に対してもっと開放的に(たとえば完全なガラス張りなど)することで,この部分の空間の閉塞感は防げたと思われる.
今回の実施案はさまざまな議論を誘うデザインとなっているが,それだけ通常とは違う,これまでに見たことのない住空間ができ上がっているということでもある.未来の多様なライフスタイルに向けて一石を投じた貴重な挑戦となっていると思う.

 

渡辺真理
(建築家/法政大学教授)

第9回の入選作品に共通して,開放型もしくは半開放型の寝室を提案していることに一抹の危惧を感じ,審査講評(『新建築』1506)にもそう記した.ところが,完成した住戸を見学すると,寝室部分はふたつの半開放型の極小寝室から「離れ」と名付けられた広い1寝室に改められていた.この住戸では寝室だけでなく,コンペ提案から実施案に至る段階で綿密かつ周到な設計変更が行われ,上質の生活空間に変容したのだ.
住戸の外周部の通路空間を「庭」に見立てるのはコンペ提案の名称に「庭が回る」と表現されている通りだが,「離れ」から見ると「縁側」とその外側の「庭」を介して,植物と共存する住まいの気持ちよさに溢れている.庭から300mmの高さに設けられた「縁側」はわが国の住宅ではおなじみだが,これまで集合住宅にはあまり登場したことのない室名である.スリークなステンレスキッチンが縁側の一角に据え付けられているから,縁側は食事空間となることが想定されているようだが,椅子座でなく床座が前提となっている点も画期的である.それでいて住戸内にはこれまでのファミリー型住戸にお決まりのいわゆる畳室がつくられているわけではない.設計者がそれと意識しているかどうかは別として,ここでは分譲マンションという建築型の和様化が新たなレベルに到達したと言えるのではないだろうか.
このような,新しく豊かな居住形態は「豊洲スタイル」に似つかわしい.それはまた,豊洲が居住区としてエスタブリッシュした証かもしれない.すぐ近く立地する「アパートメンツ東雲キャナルコート」(東雲キャナルコート5街区,『新建築』0506)の設計に関与した人間としては今昔の感がある.

 

井上徹
(三井不動産レジデンシャル取締役専務執行役員)

第9回を迎える今回は,運河に囲まれた豊かな水辺環境を享受しながらも,都心に近く利便性の高い,東京都江東区豊洲の「パークホームズ豊洲 ザ レジデンス」を課題建物とした.今回のコンペでは,このような環境の豊洲で想定される「人のつながりを呼ぶ住まい」をテーマとして,社会に対してオープンなこれからの住戸とはどのようなものであるべきかについての提案をいただいた.
完成した住戸は,水辺を身近に感じる豊洲の環境を室内に取り組んだ,リゾートホテルに住むような非日常性の表現を担保しつつ,実際の生活を見据えた設計変更による機能面での改良で,暮らしやすさの向上も図られていた.また,人と繋がる仕掛けとしての,玄関を入ってすぐのところにあるアトリエのような土間空間は,視線がバルコニーまで抜けて開放感のある心地よい空間となっていた.人を招くサロンとしてや,これから増えていくと思われる在宅ワークの際のワークスペースとしても快適に過ごせそうな,多様な可能性を秘めた空間である.
他にも,外を取り込み,植物のある暮らしを実現する外周の通路空間「庭」や,床座での暮らしを提案するリビングダイニングの「縁側」,開放感がある大きな窓に2面をL字に囲まれた寝室の「離れ」など,斬新なライフスタイルの提案がされており,集合住宅における新しい住まい方について,示唆に富んだ住戸となっていた.


左)審査委員が実施住戸を訪問.左から井上徹氏,光井純氏,古谷誠章氏, 冨永美保氏, 渡辺真理氏, 高田幹人氏, 伊藤孝仁氏.中左)古谷誠章氏と寝室の窓台に腰掛ける光井純氏.中右)寝室を見る渡辺真理氏.右)建物は運河に囲まれた豊かな水辺環境を持つ豊洲に建つ.