第3回 住空間デザインコンペ ~新しい居住空間をデザインで提案する~
結果発表


三井不動産と新建築社が共催する「第3回住空間デザインコンペ」の審査会が開催され、入賞作品が選出されました。今回は「(仮称)神田練塀町計画」が対象で、最優秀案の提案による住戸が製作される予定です(2005年秋完成予定)。審査会は、青木淳、妹島和世、光井純、磯部真幸の4氏により行われ、応募作品699点(応募登録1,435件)から8点の作品が選ばれました。

入選者

>> 入選作品一覧

■ 最優秀賞(1点/賞金100万円)

洗川尚大(フリーランス)

■ 優秀賞(2点/賞金各50万円)

桝井亜沙美(九州芸術工科大学)
難波千帆(九州芸術工科大学)

■ 佳作(5点/賞金各10万円)

亀井和美(京都工芸繊維大学)
田中行(建築+デザイン事務所イッスン)
坂本和子(フリーランス)

   
奥村理絵(オクムラリエスタジオ)
面高宏樹(フリーランス)
   
南俊允(ゴールデン倶楽部)
周防貴之(ゴールデン倶楽部)

 
※ 色味は実物と異なっています

審査講評

青木淳(建築家/青木淳建築計画事務所代表)

一番興味を惹かれたのは佳作の南・周防案。設計の条件である水回りの配置範囲が守られていないので、それだけで選考対象から外してもよかったのだけれど、それでも推したのは、この場所にあるこの規模の部屋の快適さとは実際このようなものだろうと納得したからだ。逆にいえば、この案ほどそれに成功したものは他に見つけることができなかった。決して広くない場所をふたつの場所に区切る。ひとつの場所はもうひとつの場所があることによって快適な空間になる。手前の場所は、外のテラスを望む縁側のよう。奥の場所があるからそういう感覚になる。奥の場所は、手前の場所も含めて部屋全体が温室になっているかのよう。これも手前の場所があるからのことだ。1足す1が2、でなく3になったような、すごく得した感じがある。そうした建築的方法によって、部屋全体に明るさと広がりと気楽さが生まれている。ある(できる限り単純な)建築的方法によって、私たちがなんとなく感じている今の快適さに、一度でも形が与えられたならば、極端なことをいえば、後は設計技術の問題にすぎない。こういう創造性こそを最大限に評価すべきだと私は考えるけれど、設計条件のこの逸脱ではどうしても実現できないとのことだったので、いたし方ない。
同じ判断基準で次に推したのは優秀賞の難波案。歪んだL型の水回り空間は、それを現実化するデザイン力が十分にあれば、すばらしい場所になると思う。しかし、スケールに間違いがありすぎる。結果として最優秀賞になった洗川案は、その次に推した案だ。これは上の2案と比べればおとなしい。しかし、この大きさの場所を斜めに区切ろうとは普通は思わないところ、斜めに区切ったからこその広がりが実現している。大変、上手で優れた案だと思う。

妹島和世(建築家/妹島和世建築設計事務所代表、慶応義塾大学教授)

今回は比較的コンパクトな都心型の住戸タイプについての提案ということで、コアについての考え方からいくつか異なる住戸案が生まれていた。それぞれのよさがあり、簡単に比較できず、審査はなかなか難しかったが、その中で、アイデアと提案内容のバランスがよいものを選んだ。
最優秀賞の洗川案は、コアをコンパクトにしてスペースを最大限に用意するという提案であると思うが、コンパクトに取りながらもさまざまな点が考慮されているし、斜めの線をもち込むことで居住スペースにも実際の広さ以上の効果が与えられていると思う。
優秀賞の難波案のふたつのスペースの分け方は大変魅力的であった。残念であったのは器具のスケールが押さえられていなかったことである。
佳作の南・周防案は水回りの位置が守られていないために佳作となったが、こんな所に住んだら快適で楽しいであろうなぁ、と思わされた。1~2人用のタイプであれば実現可能なタイプであろうと思う。

光井純(建築家/シーザー・ペリ アンド アソシエーツ ジャパン代表)

住空間デザインコンペは実施コンペである。デザインが市場へアピールするかどうかが重要な評価軸となっている。ライフスタイルは価値観の変化に伴って常に変化しているし、顧客の目も肥えてきている。それゆえ、デザインの斬新さと、しっかりした機能性との両立は不可欠である。最優秀賞の洗川案はシンプルに美しくまとまってはいるが、現実の住まい方を考えて、さらに磨きをかけて実施案として存在感のあるものに仕上げてほしい。優秀賞の桝井案は、平面形状の面白さはあったものの、基本機能に対する認識が甘く、採用にはいたらなかった。もうひとつの難波案は素直にきれいに収まっていたものの、空間の斬新さに物足りなさが残った。佳作はそれぞれ、少なくとも1点ずつは光るものがありながら、実施されたときの姿を考えると、もう一歩のところで採用にいたらなかった良案ばかりである。今回は膨大な応募件数を数えた。小さな住空間ながら実に無限の可能性を垣間見ることのできた大変楽しい審査会であった。

磯辺真幸(三井不動産常務執行役員 関西支社長)

最優秀賞の洗川案は、壁沿いに水回りをまとめてほかの居室を広く取り、その居室を大胆に斜めに仕切っている。シンプルで美しく居住空間を提案しながらも、住まう人にとって使い方や暮らし方の可能性が広がりそうな点を評価した。水回りのレイアウトや納まりについて、今後詰めていく必要があるものの、2面開口部の角部屋の特徴を上手に引き出しており、市場のお客様の評価が楽しみである。
優秀賞の桝井案は、広く明るい玄関と居室に突き出したアイランド型キッチンが印象的で、空間構成が非常にうまくまとめられており、住み心地がよさそうな点を評価した。
また、佳作の奥村案は、狭い室内で生活に必要な収納をいかに取るかということを中心とした空間構成がうまくデザインされていたと思う。
住空間デザインコンペも3回目を数え、700件近い応募があった。題材はやや狭小な住宅であったが、想像を超えたさまざまなプランニングが出された。間取りや住まい方の可能性は無限大であることを再認識させられ、応募した方々の熱意に圧倒される審査であった。



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