主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社  コーディネート:リトルメディア

審査講評

千葉学(審査委員長)

今回はコンペの課題自体が画期的で,それだけに読みごたえのある魅力的な提案が多くありました.両部門最優秀賞の作品タイトルには現在の賃貸住宅に対する疑問や思いが表れていて,「小さな」に込められた「自分の居場所」と,「大きな」に込められた「地域」や「社会」とが,繋がりながら両立する関係を築く提案が全体的に見ても多く,それは人の繋がりが希薄になることに対する危機感の表れだと感じました.審査のポイントとなった賃貸の事業性は,学生にとって身近な題材ではなかったでしょうが,建築を考えるとことは,現実社会との密接な関係性抜きには成り立たないものです.想像の源は現実社会にあることを忘れずに,これからも絶えず社会に目を向けてほしいです.また,設計にとっては「創造力」ではなく「想像力」が大事です.提案を考える上では,多様な主体を設定し,そこで成り立つ仕組みや暮らしを描いていったと思いますが,そうした他者に対する「想像力」が街や建築をつくる上で非常に重要です.これからもそうした思いで建築に取り組み,社会を大きく動かすような素晴らしい提案をしていってもらいたいと思います.

赤松佳珠子

今回のコンペでは都市との関係性や,豊島区に住むことに新しい価値を見出して,今までなかったことを生み出す意志が見られて非常に面白かったです.指名大学部門では,事業収支などが緻密に組み立てられていて,大変なエネルギーを掛けてきてくれたと感じました.リアルに考えながら取り組んだことは,学生にとっても意味のあることだと思います.「小さな家の大きな集まり」(神奈川大学案)と「賃貸編集術」(日本女子大学案)は,管理の仕方に新しいシステムを取り入れたという点で評価できました.一般部門では,スマホのアプリをシステムに取り込むなど,ITを使ったシステムが見られた一方で,指名大学部門では,最終的に繋ぎ役として人を介在させる提案が多くありました.そうした視点の違いもあり,両部門とも力作揃いで本当に面白かったです.

横川正紀

問題解決こそデザインの本質だと思うので,豊島区を対象とした今回の課題はやりがいのある企画になったと思います.両部門に共通して,管理人や中間領域といったいろいろな「あいだ」に可能性を感じて,人びとの関係性を希薄にする現在の仕組みを越えたいという意思が見られました.コミュニティは意図的につくるものではなく,たまたま近くにいる住民同士が助け合ううちに生まれるのが本来のあり方だと思います.そういう意味で「のびのび長屋」(芝浦工業大学案)は,DIYを起点に自然と生まれるコミュニティのモデルを提案していて,非常に実現性の高いものでした.空間を考える上では,まずリアルな人の暮らしがあって,そこに寄り添う建物や仕組みのアイデアが大切になります.受賞作品以外にもそうした起点の提案が多かったので,これから新しいチャレンジモデルが生まれる可能性を感じました.

小林克満

今回は暮らしの多様性に触れた提案が多くあり,時代のニーズを感じました.また「小家」や「大学生の編集部」などが介在することで,シェアから次の次元への進化が見られました.指名大学部門は今年初ですが,非常に深く踏み込んだ提案が多く大変価値があり,同時に課題設定の重要性にも気付かされました.「賃貸編集術」(日本女子大学案)は豊島区を分析し論理的に計画へ落とし込んでいて素晴らしかったです.「公園ときづく小さなまち」(東京工業大学案)と「霧をまとった借り暮らし」(早稲田大学案)は,事業の観点では弱かったですが,建築としてとてもよい提案をしてくれました.また,個人的にはシングルマザーをテーマにした「成長と暮らす」(前田・杉光・喜納案)が,子供の成長に合わせて部屋の型を変えられるという提案で面白かったです.全体を通して非常に実りのあるコンペだったと思います.


馬場正尊

今回は課題として,経済性や制度という一見しがらみに思える存在と向き合うことを課した挑戦的なテーマだったと思います.そのなかでもきちんと応えようとしてくれた姿を見て私は嬉しかったですし,参加者全員にとっても価値のある時間だったと思います.「小さな家の大きな集まり」(神奈川大学案)は空間と仕組みが密接につながっていて,賃貸システムを絡めることで実現性を増していました.「のびのび長屋」(芝浦工業大学案)は,日本の既存の賃貸に対するアンチテーゼを現実的に示していて,跳躍力のある提案をしていてよかったです.また,「交差点の矩形」(鈴木案)と「連れ添う賃貸住宅」(澤・井上案)はその場所ならではの特性を読み取って具体的な案に還元していて魅力的でした.デザインはもちろん重要ですが,今後空間をつくる人間にとって,それと同じくらい運営や仕組みも重要な要素になることをみんな感じ取っているように思いました.