主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社

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2017年10月2日
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2017年9月1日
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応募登録の受け付けを開始しました。
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過去のコンペ

座談会

賃貸住宅について,話そう──大東建託メンバー座談会

天野豊(商品開発部 部長)
下平孝洋(商品開発部 計画課 課長)
三上琢次(教育センター 建営システム課 課長)
伊藤真琴(賃貸営業統括部 賃貸営業管理部 営業促進管理課 チーフ)
千野惠美子(営業企画部 営業開発課)
小野優太(設計部首都圏設計課)

左から,下平氏,天野氏,三上氏,伊藤氏,小野氏,千野氏。

 

賃貸住宅をめぐる,さまざまな仕事

天野 大東建託は,1974年,土地を持っていらっしゃる方々に土地活用として建物賃貸事業を全般的にサポートする会社として創業しました。当初は住宅を建てるのではなく,倉庫や工場を建てていただき,それを仲介管理する事業が主でした。創業してから今まで,賃貸事業の企画・立案から建物の設計・施工,入居斡旋,管理・運営を大東建託のグループで一貫して行っています。また,1980年には,空家時の家賃保証を行う共済会を設立し,賃貸事業のリスクを軽減する仕組みをいち早く導入しました。この仕組みが,1997年には,これまでの空室への家賃保証に加え,修繕などで生じる支出(事業リスク)に対応した長期一括借上という仕組み,つまり賃貸経営受託システムとして確立されています。こうした賃貸事業の長期安定化への取り組みと共に,重層長屋形式をはじめとする多様な賃貸住宅,入居される方へのさまざまなサービスの開発・提供などを通し,新しいライフスタイルの創造にも注力しています。現在グループの売り上げは14,971億円(2017年3月期),管理戸数は100万戸を超えました。
今日は,2017年の賃貸住宅コンペにおいて,【賃貸】の新たなかたちをより具体的なモデルとして提案していただくために,私たちの日々の仕事やそこで感じている賃貸住宅の可能性について,お話していきたいと思います。

下平 私が担当しているのは商品の開発や都市部の敷地などに中高層の賃貸住宅を計画することです。大東建託では,賃貸住宅の計画をよりスピーディーにお客様に提供することができるように,あらかじめ設計された規格型の商品を数多く用意していますので,事業に合う商品が決まれば,基本的には配置計画するだけですぐ施工できます。すでにでき上がっているものを置くだけという考え方にはよい印象を持たない方も多いかもしれませんが,そこで採用される間取りや使用材料・仕様は常に検討,更新され,品質を確保しています。

三上 私の仕事は大東建託の賃貸住宅をどのようにお客様にアピールすることができるのか,それを会社の営業部隊と共有し,彼らに伝えていく業務になります。土地のオーナーに対してどうメリットを伝えていけるのか,基本的には事業性が主になりますが,営業する周辺の賃貸住宅の供給量や入居状況など,膨大なデータの蓄積を基にして,入居者の需要も含めた検討がなされます。

伊藤 私は賃貸住宅ができた後,そこに住むお客さまを探すために何ができるかに日々向き合っています。現在,大東建託が主に入居者として想定しているのはカップル・ファミリー。住宅を建てる前の若い夫婦世帯です。でも最近はシングルの方の入居も多いですし,高齢のご夫婦も賃貸住宅に住むことを希望されます。大東建託の賃貸住宅の平均賃貸入居期間は3年半あるかないかで推移していますが,長く住んでいただくための工夫はこれからより必要になると感じています。

天野 会社としては少しでも長く住めるカップルを想定していますが,実状は少し違って,シングルの方たちが想定以上に増えているようです。アクティブシニアの想定を考えてみたりもしていますが,持ち家率の高い高齢者の方が賃貸住宅を選択するニーズをどうとらえるかが課題です。

小野 私は,建築営業が土地のオーナーの方に提案する賃貸事業を設計して具体化する仕事をしています。スピードが求められつつも,現場からのフィードバックを手がかりに設計をしていく。その経験から,どういった住戸であればお客様が入居しやすいか,それが分かるようになります。私が意識しているのは,よりシンプルにつくることです。賃貸事業をひとつのカタチにまとめる上では,関係者全員の合意形成が重要でありその上でシンプルさは人に説明がしやすかったり,メンテナンスがしやすいといったさまざまなよい部分を持つと思うからです。

伊藤 事業性を求めて居住空間に無理が生じてしまうのは逆効果なのですが,収納効率がよかったり,家具をわざわざ買わなくても住める状況がつくられているのはやはり喜ばれます。かといって,用意されているものが邪魔になるようではだめなので,シンプルなのはよいことだと思います。

 

大東建託が描く賃貸住宅のこれから

千野 通常の建築の仕事では,つくる時の敷地のコンテクストや周辺環境を読んで,そこに住む人の状況を鑑みながら設計を進めていくと思うのですが,賃貸住宅はオーナーの事業資金負担をできるだけ少なくするために,管理しやすい建物にすることだけでなく,時代の流れや社会現象,社会問題を読み取り,そこから今何をするべきなのかを見つけ出していきます。35年間一括借り上げしてオーナーと伴走していくので,未来に向かってのビジョン,入居者が何を望むのかを私たちが予想していかなければなりません。私が所属する未来研究所は,さまざまな角度で社会状況を分析し,そこからデータを導き出しつつ,何が求められているかを検討して,未来に向かってオーナーの方と入居される方の暮らしを考えています。現在,大東建託の賃貸住宅には約170万人の方たちが住んでいて,そのスケールメリットを意識することも大切にしています。賃貸住宅に住まう人たちみんなが仲間だという意識は,新たな仕組みにも繋がる気がするのです。たとえば,災害時にみんなで対応できる仕組みを賃貸住宅が提供できれば,解決できることが増えるはずです。ひとつの賃貸住宅でできることもあれば,賃貸住宅がそれぞれネットワークして会社や地域の人と何か一緒にできる未来も描けるかもしれません。

小野 確かに設計をする時,私たち設計部は基本的には営業担当を介してオーナーの方とやり取りします。要望を受けて,蓄積されたデータや社内の中で共有する賃貸住宅のコンセプトを鑑みながら設計に反映させていきます。ただ経験してみて思ったのですが,私がまだ入社したてで,現場測量ばかりしていた時は設計者がオーナーの方にお会いする機会が多く,今思うとそういう時は成果に繋がる機会も多かったと思います。実際に設計する人と,それを依頼する人とのフェイストゥーフェイスのやり取りが賃貸住宅の未来に繋がると僕は感じています。賃貸住宅としての大義と,より人の感覚に身近な生活の場であるという意識の両立がこれから求められるのではないでしょうか。

 

賃貸住宅の付加価値,価値が上がることとは

三上 賃貸住宅にどう付加価値を付けていくかは,私たちにとって日々考えている課題でもあります。今回コンペの対象エリアである豊島区は以前に回ったことがあるのですが,大きな需要として,オーナーの方の自宅を建て替えるために賃貸住宅を併設するケースがあります。住宅ローンは借入人の所得と年齢から決定されるため,高齢者になればなるほど建て替えは難しく,建て替えたいけど,ローンが組めないから建て替えられない。賃貸住宅を併設して事業性を加えることで,夢を実現できるのです。これは賃貸住宅が生み出したひとつの価値だと思います。
これからさらに賃貸住宅の価値を上げていくためには,そこに必ず人が住んでいるメリットをどうその地域に還元していけるかだと思います。私は住まいが川崎で,今までは周辺に建つ工場や大衆浴場といった場所が壊されて普通の集合住宅に建て替えられることが多かったのですが,最近では1階で大衆浴場を続けて,その上に賃貸住宅をつくって事業を継続していくケースを見かけます。入居者もシングルで,自分の家の風呂が狭いので,1階に大きな浴場があると重宝しているようです。この場合,賃料との連動はありませんが,入居者に何らかのサービスを提供することができます。賃貸住宅は事業を継続させることが可能となる事業再生能力を持ち合わせていると思います。入居者にとっても付加価値になる場所のあり方として,注目しています。
一方で,賃貸住宅のメリットは解体しやすさにもあると思っています。東京圏では築45年を超えた鉄筋コンクリートの分譲マンションがたくさん残されていく状況が近々やってきます。分譲は区分所有なので権利が複雑に絡み合い,簡単に解体することができません。かといって,減価償却した築45年の鉄筋コンクリート造の建物に人が住める状況をつくるのはなかなか難しいことも多いと思います。そういったことを考えると,賃貸住宅はある意味解体しやすい,環境に優しい建築なのではないでしょうか。そういう部分で賃貸住宅の再評価を私たち自身も考えるべきだと思います。ほかにも賃貸住宅は住宅ローンも固定資産税も不動産取得税も入居者様が支払う必要がなく,身軽であることを知っていただきたいです。

下平 分譲マンションや戸建て住宅の維持管理は長期にわたり個人に頼らなければならない中で,入居者の方はもちろん,建物のオーナーの方も,大東建託であれば,賃貸住宅の管理を会社がすべて請け負うためより安定的に建物を維持できることがメリットです。住まい手が3年半程度で交代していくというのも考え方によってはメリットになり,分譲ではほとんど人が変わらなくて固定化されたコミュニティになりますが,賃貸住宅は人が変わることで新たなコミュニティをつくり出せる。それもひとつの可能性なはずです。

伊藤 入居者の方は修繕費もないので,ちょっと飽きたら新しい場所に移動しようということも,引っ越し代さえあれば可能です。いろいろな街を渡り歩くこともできると考えることもできます。このコンペに応募される方にとって住んでみたい賃貸住宅を是非考えてみてほしいと思います。

千野 今回のコンペが,単なる集合住宅ではなくて,事業性を視野に入れて賃貸住宅を考えてみるというテーマはとても面白いと思います。ただ,「集合住宅」なのか,「賃貸住宅」なのかの違いが本当に明確に見えてくるのか少し不安です。私も建築学科の学生だった時,「集合住宅」の課題はありましたが,「賃貸住宅」を設計する機会はありませんでした。会社に入ってみて,「賃貸」と向き合うことは,日々土地を活用したいクライアントの皆さんと,ひいては人や社会と向き合うことなのだと感じます。皆さんにとって何がよいのか。空間のことだけではなく,将来の生活設計を含めて向き合わなければいけないんです。それが私たちにとっての「集合住宅」と「賃貸住宅」の違いです。今回,まずは皆さんに自分自身で住みたいと思える場所をつくっていただきたいです。それがさまざまな社会問題に向き合って何か解決できるような場所だとよいですね。私たちが日々向き合っている課題を,一緒に考えていただけることをとても嬉しく思います。

天野 今までのコンペでは,そこに新たな空間の提案はあっても,それが新たな【賃貸】のあり方と言えるのか,私たち自身の理解も及ばない状況がありました。設計者にとっては「住む人」が重要で,そのための空間をつくるので,「集合住宅」でも「賃貸住宅」でもあまり関係がなかったのだと思います。「賃貸住宅」をつくるということは,土地を所有する人にとってのリターンをどう考えるかという視点が必要です。お金だけではなく,社会問題をどう解決できるかもひとつのリターンではないでしょうか。そういった視座を持った皆さんの提案を楽しみにしています。

(2017年8月7日,大東建託本社にて 文責:『新建築』編集部)