主催:長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

 

審査委員長 隈研吾

kuma

今回のテーマは,今までの課題とは違って建築的なアプローチだけでは解ききれない問題だったと思います.もう少し枠組みを広げ,アーバンデザイン,社会問題,経済などの領域まで広げて考えていかないとよい解が出ないという難易度の高いテーマだったのではないでしょうか.しかし,難易度のわりにはたくさんの応募があり,またチャレンジングな案も多く,審査していて楽しかったです.最優秀賞の「+1000歩の回り合い」は,アーバンデザインまで踏み込んだ提案をしていました.今までの集合住宅は,集合住宅の中だけで完結しており外には閉じたものが多かったのですが,「+1000歩の回り合い」はもう少し社会に開いて,ネットワークとして集合住宅を捉えており,今後の集合住宅の課題に対しても示唆的な案であったと思います.全体的に空き家の趣向は,昭和っぽいようなテイストの提案が多く,若い人たちはそのような雰囲気も好きなんだなと感じられました.

 

審査委員 乾久美子

inui

今年のテーマは,例年になく具体的に周辺地域と繋がる仕組みも含めた集合住宅の提案を求めるものでした.また,ゲスト審査委員に饗庭さんを迎え,都市計画の視点からも評価していくというように新しい審査の仕組みもあってか,今までの応募作品とは違う雰囲気のアイデアが多く,大変面白い審査でした.最優秀賞の「+1000歩の回り合い」は,1,000歩の散歩道の中にある空き家をうまく活用しようというもので,今回のテーマに真摯に取り組んだものなのだと思いました.また,スロープ兼縁側みたいな空間がゆったりとしたデザインで,実際にこのような空間ができると楽しそうだと感じさせる大らかな提案でよかったと思います.3点の優秀賞はそれぞれ特徴的なアイデアだったものが選出されました.中でも,私は「自治工房」の提案を面白く思いました.仕組みを持つ建築を考える時,単純な建築のデザインに回収されないようなものを抱え込む,そうした時に小手先のデザインでは通用しないということが明快に見えてくるような提案でした.それが建築として本当によいのかどうかは分からないのですが,ただ建築の問題がこれまでの建築の構成論や,デザイン論から逸脱しなくては解けないということ,また空き家問題を含めた近年の建築が抱える課題が変わってきていることを感じさせるもので,審査を通じて考えることが多くあり,私自身も勉強になりました.

 

審査委員 藤本壮介

fujimoto

ここ数年,昭和的な懐かしい感じの手描きパースや木賃アパートのような造形が,拭い去り難くほとんどすべての応募案や入選案に見られていましたが,今回の「空き家」という課題はその傾向をさらに加速した気がします.当初は僕自身はこの傾向に懐疑的でしたが,ここまで来ると単なる流行というよりも,もっと根の深い社会の無意識というか病魔というか悟りというか,そういう境地を感じ始めて,興味深く審査をしました.空き家を手掛かりに,集合住宅とその周辺環境を空間的時間的にどう関係付けるかというところが皆さんの大きなテーマとなっていましたが,面白いことにそれらを関係付ける鍵となるものは,もはや建築ではなくて,歩いたり,モノの移動だったり,記憶の分配だったり,脱建築化しているように見えました.これも文化人類学的にとても興味深く,このままモノと空間としての建築が消えてしまうのか,それとも形と空間の逆襲が始まるのか,さらに来年以降の審査がますます興味深いものになりそうです.

 

審査委員 池上一夫

ikegami

今回で長谷工コンペティションも第11回目になりますが,今までのテーマは比較的敷地の中で計画が完結されていて,その敷地の中に周辺住民やコミュニティを誘引するテーマだったのですが,今回はこの敷地から周辺の空き家へとコミュニティが流出するような新たな集合住宅を模索するテーマを設定させていただきました.学生のみなさんにとって,難しいテーマだったかもしれませんが多くの応募をいただきました.どの作品も応募者の苦悩が表れた,よい提案が多かったように思います.最優秀賞の「+1000歩の回り合い」ですが,周辺の空き家の使われ方を具体的に提案し1,000歩で回れる計画としていて,新たにつくる集合住宅も縁側のようなスロープで各住戸を結びつけるという新しいアイデアが盛り込まれていると思いました.優秀賞の「Vacan-Cycle」は,集合住宅に住む人が自転車に乗って屋台を引き,周辺の空き家に移動しながら商売を営むという斬新なアイデアでした.どの作品も甲乙つけ難く,審査委員の皆さんも大変苦労して今回の賞を決めました.応募いただいた皆さん,本当にありがとうございました.

 

ゲスト審査委員 饗庭伸

ikegami

私は,まちづくりや都市計画を専門としていて,建築単体というより都市空間や,都市の中にあるさまざまなシステムを読み取ってどのように集合住宅がデザインされていくか,そしてそれが都市空間を再びどうデザインしているのかという視点で審査をしました.入選しなかったものでも面白い案がたくさんあり,高いレベルの競争だったと思います.このようなテーマでデザインコンペを行ったことは,今回が日本では初めてかもしれませんが,「空間をこのように使おう」,「住宅をこのように壊していこう」という幅広いアイデアが多く,学生の中にたくさんの知恵が蓄積されているのだなと関心しました.最優秀賞,優秀賞の4点はそれぞれが違う方向を向いた際立ったアイデアが選ばれたと思います.都市空間に直接介入するものから,集合住宅をつくることで周りに少しずつ介入していくものなど,スケールがそれぞれ違っていて面白かったです.これから空き家がたくさん生まれることが予測されていますが,逆に今回の対象敷地のような大きな規模の集合住宅の計画が減っていく社会になったとも予測されます.しかし,今回の提案の多くは空き家のスケールに合わせて,敷地を細かく割ったり建物を分節したりというものが多く,今回の敷地を使ってできること,あの敷地の大きさでなければできなかったことを提案した案がほとんどなかったのが残念でした.そこは今後の課題かもしれません.