主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社  コーディネート:リトルメディア
 

上:指名大学部門公開審査.左下:表彰式風景.一般部門最優秀賞を受賞した鈴木翔之亮氏と小林雄介氏.右下:プレゼンテーション時の模型説明の様子.

 

審査講評

千葉学(審査委員長)

このコンペでは前回(第6回)に引き続き,仕組みも含めて賃貸住宅への提案をしてもらっていますが,興味深かったのは,特に一般部門において,地域の産業や生業を絡めたボトムアップ型の提案が多く集まったことでした.最優秀賞の「商店街がはじめる住笑混合賃貸」(小林・鈴木案)もそのひとつで,商店街に潜在する小さな主体と空間の演劇性とを抱き合わせた点が痛快でしたが,実はより大きな主体や資本が入った時にでも成り立ちそうな可能性も見えたことが評価に繋がりました.単に大きいことへの抵抗や批評だけでなく,むしろそれらも巻き込める強靭なシナリオが今の時代には必要なのだと思います.もうひとつ,コンペ全体を通じて感じたことは,専有部に対しての提案が希薄だったことです.仕組みを考えていくと提案のフォーカスが共用部に偏りがちですが,本来は個々の専有部が相互にどのような関係を築くか,そこに生起する生身の人間の生活はいかなるものか,そんな実感を伴った空間を構想していくことも同じくらい重要です.ぜひそのような視点も忘れず,今後も新しい提案を考えていただけたら嬉しいです.

赤松佳珠子

今回のテーマは幅広く社会と建築の繋がりを考えるよいきっかけになったと思います.参加してくださったみなさんは,それぞれの地域や場所,特に身近なものをよく読み込み考えて提案してくれました.メタボリックシンドロームを解決しようとする「動食住」(東北工業大学案)はよかったのですが,最後の段階で提案が建築の中で完結しすぎてしまったのが惜しかったです.街中に広がっていくと,もう少し可能性があったと思います.「商店街がはじめる住笑混合賃貸」(小林・鈴木案)はクオリティが高い提案でした.興業を行う大きな企業の資本を最初からターゲットにしているとこういう発想にはならないと思いますが,構築したものが大資本を受け入れ得る幅のある提案になっていて,実際に売り込みにいけばいいのでは! と思うくらいよく考えられています.全体としては,スキームまで踏み込めている提案がある一方で,ターゲットやゴールの設定が不明確な案もあり,まだまだこのコンペ自体も発展途上と感じています.

横川正紀

前回はエリアが豊島区に限定されたため似通ったテーマが集まりましたが,今回はテーマを広げたことでさまざまな地域の課題が対象となり,提案に奥行きが出たと思います.人と人,住宅と地域との関係の希薄化は前回から共通して問題とされていました.コンペを開けば,こんなにもアイデアが出てくるのにもかかわらず,工業製品のように住宅ができてしまう現状を省みると,経済圏をかたちづくっているわれわれ事業者が意識を変えていかなくてはならないと逆に刺激を受けています.印象に残ったのは「商店街がはじめる住笑混合賃貸」(小林・鈴木案)です.イメージしやすい案でありながらも,こうしたコンペでなければなかなか出てこない提案です.お笑いを興業する大資本企業に話を持っていったら現実化するのではないかとワクワクしました.「Bricolage Life」(七野・森・黒岩案)は提案者の身近にある岸和田のコミュニティをロジカルに捉えて一般性のある提案に昇華できていない点でもったいなかったと思っています.

小林克満

全体として,問題の捉え方において学びが大きく,「こういうことを考えているんだけどやってみませんか」と行政に一緒に言いに行けたらと思う提案と多く出会え,賃貸住宅の力を感じるコンペになったと思います.特に「動食住」(東北工業大学案)は,メタボリックシンドロームの解消だけではなく,街の空洞化といったスケールの異なる問題にも働きかけられる,さまざまな可能性を持った案でした.「保育園に暮らす」(大熊案)はよいアイデアです.われわれも保育所事業を展開しており,賃貸併設の保育所を提案しているのですが,保育園の中に賃貸住宅つくって住もうという大熊案に可能性を感じました. 今年はエリアを広げて全国から問題意識とそれを解決する賃貸住宅を求めましたが,個別解の面白さと,その汎用性という意味での展開力など,さまざまな可能性を見せていただきました.


連勇太朗

全体的に今回のコンペのテーマである社会問題の捉え方がどの提案も甘かったと感じます.空き家の増加や中心市街地の空洞化といったすでにラベリングされている社会問題はウィッシュリストでしかありません.それらの問題が起きている世の中の構造こそが社会問題に取り組む際の本質だと認識してほしいです.問題の奥に潜む原因の構造的問題に対して,独自の着眼点は何か.そういった点では,「加勢する賃貸住宅」(九州大学案)と「銭湯のあるまち」(信州大学案)はユニークな問題設定ができていました.また,社会問題を俯瞰的に考えてばかりいると,結局誰がそこに住むの? という具体的なイメージが曖昧なままになってしまいます.そういう意味で人がそこに住みたくなるようなユーザーの視点に寄り添った提案であるかどうかも重要です. 楽器や絵など,災害時に見捨てられやすい物事を共同して保存しようとする「7つのアタマ」(櫻井案)は面白い提案でした.他の案は問題を解決しようとするリアルさがあったのに対し,社会問題だと思っていたものがそうではなくなる可能性を孕んでいました.時にはフィクションや文学の力,想像力をもって,現実とは少し違う未来のあり方を想定することで,問題の捉え方自体が変わってくることを示しています.