最新情報

2016年11月1日
結果発表をアップしました.
2016年8月10日
プロポーザル部門1次審査結果発表をアップしました.
2016年7月1日
応募登録の受付を締め切りました.
2016年3月1日
SMOKERS' STYLE COMPETITION 2016のWebページをオープンいたしました.プロポーザル部門,作品例部門への応募登録の受付を開始します.
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プロポーザル部門 審査経過

──2次プレゼンテーションを聞かれての皆さんのご意見を聞かせてください.

古谷
今回のように広くて高低差があり,もともとランドスケープを持っている屋外環境で分煙を考える時は,ほどよい距離感への意識が大切だと思います.この考え方が前提となっている冨谷+大沼案は,赤いイス(たばこを吸わない人用)と黒いイス(たばこを吸う人用)を自分の好きなところに持って行き,イスの集まりや距離感で,人が自然に密度を意識できます.また,後藤案は敷地を巡っているラインがたばこが吸える目印になっていて,他の場所はいろいろな使い方ができる.これも距離感や密度への操作が感じられます.窓辺の額縁がたばこを吸う場所をつくり出し,それがひとつの風景になっている田中+額田+内藤案も同様で,この提案には単体と全体での魅力を感じます.
妹島
私もそれぞれの提案が,今回の屋外空間の中にどのような距離を持ち込むことができるか,それが重要ではないかと考えました.冨谷+大沼案は考え方としては魅力的だと思いましたが,高低差があり,それほど見晴らしがよいわけではないこの敷地においては,なんとなくイスがばらけているだけと見えてしまうのではないかという危惧を感じました.何かもうひとつアイデアが必要な気がします.家をバラしたような西川案は多少意図的に見えてしまう気がします.もう少し単純な形で,数も少なくても成立する案だと思いますし,むしろその方が,周りの環境によって変化を生み出せるものになるのではないかと思いました.鈴木+森案は,森を四角く切り取ってしまうのでなく,もう少し柔らかく切ったり,光を入れたりできたら,より多様な空間や経験をつくれたように思います.
西沢
田中+額田+内藤案は,ひとつでも,たくさん置いてあっても成立するように思います.ただ,建築というよりはプロダクティブなんですよね.それが少し気になりますが,今回の敷地のあり様には適した提案だと思います.後藤案はラインスケープというコンセプトは面白いのですが,敷地に対してのラインの量が多すぎる気がします.
六鹿
田中+額田+内藤案は,これだけ大きな外構,ランドスケープがある敷地の中で,それぞれの場所の個性に応じた違った窓を設計できると思いました.「窓」による提案はどこか既視感もありますが,仮設的にできる可能性も含めて面白いです.西川案もひとつのものをばらし,それがはじけていくつかの場所ができる考え方で,非常に魅力的です.それから僕はプロペラを用いて,普通は敬遠される歩きたばこの提案に挑戦した酒谷+鈴江案も勇敢な計画だと思います.スケールや数を変えてみたら面白いオブジェにもなるのではないでしょうか.
佐藤
煙に対して何かを考える案と,分散することでどこでもたばこが吸えるという案のふたつに分かれる気がしました.阿曽案は煙突の周りが太陽熱で温まり,内側と外側で上昇気流が生じて煙を上へ流していく.大掛かりな設備を必要としない方法で煙を操作するアイデアは面白いのですが,構造的にどう成立できるかなどリアリティに乏しいのが残念です.杉案のカレイドスコープは,高層ビルの足元にある緑を映し込むオブジェに,子どもたちが歓声を上げるシーンが想像できますが,実際分煙というテーマで考えた時に,たばこを吸う人と子どもたちはどう分けられるのでしょうか.田中+額田+内藤案は,たばこを吸う人と吸わない人が両端にいて共存できる感じが生まれたら面白いです.
岩井
今回のロケーションでの共存を考えてみると,何らかの仕掛けは景観に溶け込み,それ自体は主張しないかたちであることがこの変化に富んだ地形にあっていると思います.その中では後藤案.これがいちばん景観に溶け込み,かつさまざまな可能性があると思いました.冨谷+大沼案は,たばこを吸う/吸わないにかかわらず,場所自体をひとりひとりが自由に選択できて,思い思いの場所にいられるのはいいと思います.すごく好きなコンセプトでした.できれば,たばこを吸う人のイスがもう少し明るい色だと嬉しいです(笑).杉案のカレイドスコープも,もう少し軽いオブジェにできるのであれば,ランドスケープがつくれるように思います.
妹島
たくさんあっても風景となり,同時にそれがひとつになった時でも,どれだけその場所が魅力的であるかが大事だと思うのですが,その両方から考えると,田中+額田+内藤案はいろいろなシーンをつくれるかなと思いました.
古谷
ひとつあることとたくさんあることの両方に意味があり魅力的なのは,田中+額田+内藤案ではないでしょうか.西川案もよくできていますが,逆につくられすぎている感じがします.
西沢
田中+額田+内藤案はたばこを吸っていても景観をくずさない強度を感じます.僕は1次審査では西川案がいちばん可能性があると感じていましたが,不特定多数の人が使うにはリアルにつくり込みすぎていて,場所のあり様に自由がないのが残念です.
岩井
私も景観に溶け込むという意味で田中+額田+内藤案にも共感しています.真四角ではなくて曲線なので,人が居場所の拠り所としやすい優れたコンセプトだなと思いました.
古谷
皆様の意見を集約致しますと,田中+額田+内藤案が今回の敷地で風景にもなり,屋外の分煙という意味でも提案が優れているようです.最優秀案に決定してよいと思うのですが,いかがでしょうか.
(審査委員賛同)

──優秀賞についてですが.

西沢
酒谷+鈴江案のプロペラも面白いですが,100個から150個ぐらいの量がないと成立しないアイデアではないでしょうか.メンテナンスも大変です.
六鹿
パブリックアートとしてはとても面白いと思うのですよね.吸いながら歩ける道をつくって,どう分煙するかという発想も新鮮です.
佐藤
プロペラは場所を示唆することに使われているのであれば分かりますが,歩きたばこの環境をプロペラの風によって分煙するのは,難しいように思います.
西沢
今回は敷地にある程度勾配もあるので,より地形に沿って設置が可能な後藤案がよいと思います.
妹島
後藤案はランドスケープに溶け込んで,ドローイングもきれいですが,そこで起こることがすべて想定されてしまっているような,なんとなくそれ以上のことが起こらないような気がするところに少し疑問を持ちます.
古谷
部分と全体で見た時,後藤案がもっとも人が集まる場所に成り得る全体性があり,個々の場所もつくり出せると思います.
岩井
私も冒頭に申し上げたように,後藤案がいちばん分煙をする場のあり方として,魅力をつくり出していると感じました.
古谷
では,後藤案を優秀賞とするかたちでどうでしょうか.
(審査委員賛同)

──最優秀賞は田中翔太さん,額田奈菜子さん,内藤佑さんの提案.優秀賞は後藤充裕さんの提案が決定いたしました.おめでとうございます.

(2016年9月7日,JTアートホールアフィニスにて 文責:『新建築』編集部)