いわき平競輪場
設計 日本設計
インタビュー:讃井章(日本設計)
聞き手:佐藤英治(イーエスアソシエイツ)
- 讃井
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幅木に設けられた孔.
- 佐藤
- なるほど.ガラス張りになっているので,たばこを吸っている人も吸わない人も同じ環境でレースを観戦できますよね.また,部屋の足元の幅木に孔が空いているのは吸気のためですが,歓声も中に入ってくるので,音環境も分けられていないところが面白いです.それから床もカーペットが喫煙室内まで繋がっていて,ガラスのボックスがポンと置かれたような軽やかさがあります.大きな空間を切り取った感じがします.
- 讃井
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バンクよりメインスタンドを見る.
- 佐藤
- 喫煙室には,たばこを吸うというはっきりした目的があります.それに対して,居室という考え方を導入したのは新しい切り口だと思います.今後,喫煙室をどのように扱うかは,建築家にとって大きな問題だと思うのです.なくなることはないでしょうが,条件は厳しくなってきます.それをどうやって解いて,どのようにクライアントに納得してもらうか.今後,喫煙室に必要なものは何だとお考えですか?
- 讃井
- 入りづらい心理を取り除くことだと思っています.ひとつには密閉された空間でないこと,それから,何かをしながらたばこを吸えることが,心理に関わると思います.ここではレースを見ながらたばこを吸えることが重要でした.
設備の面でも,喫煙室は,換気回数も使う材料も,これが適切という回答がなくて,毎回試しながらになりますよね.ここでは換気回数は25〜30回/hとして,空気清浄機にて補完しています.喫煙室が並ぶラインの天井にダクトを設けるなどしているので,その分コストもかかるのですが,分散配置することに価値があると判断しました.クライアントには,かっこいい喫煙室をつくることで,かっこよくたばこを吸ってもらいましょうと説明しました. - 佐藤
- それは私もいつも言っています.かっこよく吸うことは大切なことで,そうなるように計画することが建築家に求められるアイデアのひとつだと思います.そして,もちろん設備的に解決していくことも必要なのですが,建築家にはスモーキングルームに対する特殊解が求められるのです.この喫煙室のように喫煙室を隠さずに,オープンにしていくことは,今後,喫煙室のひとつのスタイルになるかもしれないですね.
(2009年5月11日いわき平競輪場にて 文責:新建築社編集部)
- 建築概要
- 作品名 いわき平競輪場
設計 日本設計
施工 大林組・常磐開発・東部産業・大和電設工業
クレハ電機・クレハ設備
日化エンジニアリング特定建設工事共同企業体
所在地 福島県いわき市平谷川瀬字西作1 - 三塩達也(みしお・たつや)
- 1960年東京都生まれ/1983年東京藝術大学美術学部建築科卒業/1985年同大学大学院修士課程修了後,日本設計入社/現在,同社第3建築設計群副群長
- 讃井章(さぬい・あきら)
- 1971年福岡県生まれ/1996年武蔵工業大学工学部建築学科卒業/1998年同大学大学院修士課程修了後,日本設計入社/現在,同社建築設計群主任技師
佐藤英治氏(左)と讃井章氏(右).5階の喫煙室にて.