プロポーザル部門審査経過

審査では,さまざまな議論が出されましたが,各賞決定の経緯を中心にまとめました.

古谷
それでは,審査を始めたいと思います.まず,たばこを吸う方と吸われない方にそれぞれご意見を聞きたいのですが,西沢さんどうでしょうか.
西沢
僕がたばこを吸ってみたいと思ったのは,西川+海法案出口+他4名案です.このふたつは従来のカフェとは違う空間を発想していて,行ってみたいなと思いました.その意味では大塚案もそれを期待していたんですが,パラソルの存在が大きすぎたり,カラーリングが唐突だったりするのが気になりました.もっと近付いてみたくなるような,見たことないようなシェードであればよかったんですが.
六鹿
たばこを吸わない立場から言うと,大塚案はいちばん分煙が成立している案だと思うのですが,彼自身が少し勘違いしていて,パラソルの下が喫煙者のいる場所,そうでない場所が非喫煙者のいる場所と捉えてしまっているのが残念に思うし,赤白にこだわりすぎているのも残念です.せっかくよい原理を捕まえかけているので,もう少し汎用性の高い方向に持っていけないかという印象を持ちました.西川+海法案はコストをかけずにできそうにも思いますが,実際は非喫煙者は空気の流れを見て居場所が限定されるような気がしました.出口+他4名案はとても魅力的なのですが,この場所でイベントをする時に空間全体が見渡せなければいけないことを考えると,これだけ大きいテーブルが入るのは難しいかなと思いました.ただ,どこかでこういうものができたら面白そうです.なので僕は西川+海法案大塚案に可能性を見て,このふたつを挙げます.
古谷誠章
古谷誠章
六鹿正治
六鹿正治
妹島和世
妹島和世
妹島
合屋+坂木案大塚案は似ていますが,大塚案は上がオープンで自然に空気が流れるのがいいと思いました.ただ,くぐってここに入るのはどうかと思いますし,赤白にこだわらないパラソルのあり方があるといいなと思います.西川+海法案は魅力的ですが,分煙が本当にうまくいくかが不安です. たばこを吸う時は,やはり意識して灰皿などを人から遠ざけるので,小さなテーブルを動かせないとすると少し不自由に感じます.
古谷
そうですね.もしテーブルが動かないと主張するのであれば,あの配置に何か主張がほしいですね.
妹島
青木案は,風車が飾りのように見えてきてしまったことが残念でした.
六鹿
西川+海法案は,カーテンを入れてその間に空気を通すのは魅力的ですが,実際はカーテンをずっと閉めておかなければいけないのだとすると,どうでしょうか.
西沢
そうですよね.それに,ペリメータのところはお客さんの出入りもあるだろうし,お店の方もすばやく動きますし,気流を整流させるのはほとんど不可能だと思います.
佐藤
たばこの煙は上に上がっていくし,上部に人はいませんから,あとは横に引いて排気すればよい.上がってきた煙にポンとお鍋のふたをかければ,自然に集まり,その上はダクトなど必要なくて,開放しておけばいいんです.自然に既存の排気口から出ていきます.そういう意味では大塚案は,かけたシェード自体が空気を吸うのではなく,ファンを回して気流をつくり,外に出していますから,空調はそのままで,いちばん簡単に分煙ができる案だと思います.なぜ赤白なのかが分かりませんが.
六鹿
シェード案は,そこの下に行って吸えば分煙になるけれど,それ以外の場所はそうならないというのでは,本来の分煙と言えない気もしますが,全体にかけていけばいいんでしょうね.
熊倉
出口+他4名案は,どこかでチャレンジしてみたい感じはしますが,やはりこのお店では難しいのかなと思います.
六鹿
これはテーブルの温度が50度になると言いますから,あまり省エネではないですよね.
佐藤
さきほどのシミュレーションで,確かに煙に初速を与えれば,テーブルづたいに上がっていくと思いますが,普通に煙を出した時にどうなのかはちょっと疑問です.アイデアは卓越していますが,実際につくることを考えると難しそうです.
古谷
初速をつけて吹きたくなるというアフォーダンスはありますね.大きくないと難しいでしょうか.
佐藤
たぶん小さくすると,温度などの調整をしていかないと,煙が集まってしまう気がします.青木案はもう少し広がりがあるかと思っていたのですが,1次案にあった優雅さがなくなってしまい少し残念です.風を表現したいというアイデアとしてはとても面白いと思いますが.
古谷
大塚案のパラソル上部に入っているファンは必要なものでしょうか.装置としてくるくる回っている風景は面白いなと思うんですが.
案を見ていると,選ばれた提案者が学生さんを含め若い方が多いので,具体的な提案のレベルが異なり,選ぶのが難しいですが,この審査会では,なんらか手を入れることが必要になるかもしれないにせよ,できるだけその案のエッセンスを活かしていけるアイデアを選びたいと思います. 大塚案と似ているものが合屋+坂木案になると思いますが,こちらはどうでしょうか?
佐藤
メカニズムはここまでしなくてもいいと思います.吸い込みが細いのが気になります.
六鹿
吹き出しも多いですよね.
西沢
1次のイメージはきれいだったのですが.
熊倉
大塚案は自然ドラフターをたくさんつけていくイメージですよね.ただ,人や場所を分けることでの分煙にはしたくはないので,パラソルの下で吸うことで分煙が成立する,というのでは期待しているイメージとは異なりますね.
六鹿
でも,パラソルをたくさんつけることで,どこでも分煙ができるのではないでしょうか.
西沢大良
西沢大良
佐藤英治
佐藤英治
熊倉一郎
熊倉一郎
佐藤
似た案として合屋+坂木案大塚案では,大塚案の方がダクトに接続しなくてもよいという点,軽い素材でできる点が卓越していると思います.ただし,空調の風が上から吹き下ろされることがないような工夫が実際には必要でしょう.
古谷
シェード案は,イベント時に空間全体が見渡せることを考えても,軽い素材でたためた方がよいですよね.大塚案は,赤白のパラソルが印象的ですが,こういった色やグラフィカルな部分についてはお店側との協議も必要になるでしょう.さて,どうでしょうか,そろそろしぼりたいですが.
今までの話を総体的に見てみると,西川+海法案はカーテンを常時かけておけるか,また,人が動く中で気流が確保できるかの点が疑問です.合屋+坂木案は,少し大掛かりになりそうです.デザインに再考の必要がありそうですが,大塚案の方がより簡単でおおらかに気流がつくれそうだという話が出てました. 出口+他4名案は,コアンダ効果は面白いですが,カフェという場所にあの大きなテーブルを置いて成立するかに不安があります.また青木案は,1次審査時の風を視覚化するなどのアイデアを,風上風下をつくって解決している点がどうもうまくいくように思えない.
僕は,これは大塚案のアイデアを採用して実現していくのがいちばんよいのかなと思うのですが,みなさんいかがでしょうか.ただ,パラソルの下に喫煙者を入れるというかたちでは本来の分煙とはなりませんから,このアイデアを空間全体で使用しながら,分煙空間を実現させていくことになるでしょう.彼自身があまり気が付いていないようですが,この案には喫煙者と非喫煙者を同じテーブルにつかせる仕組みがあると思います.また,今回は実現させることが前提ですが,アイデアコンペです.ひとつのアイデアを,今後関わる人がどれだけ膨らませて実現できるかが重要なのではないでしょうか.
西沢
そうですね,このパラソルが喫煙シェードではなくて,分煙シェードになればいいんでしょうね.
熊倉
この案は自然の原理を利用してますから,汎用性が高いところに大変期待が持てます.
古谷
では,大塚案を最優秀賞として決定したいと思います.また,優秀賞としては,ここでは実現が不可能ですが,今後何かしらの実験がなされる期待も込めて,ひとつの仕掛け(コアンダ効果)を具体的に提案された出口+他4名案に決定したいと思います.
実現に向けては,解決しなければならない点が多くあると思いますが,今までにない分煙空間としてのカフェが実現することを審査会は期待しています. ありがとうございました.

(2007年9月3日 JTビルにて/文責:本誌編集部)