主催:株式会社NTTファシリティーズ  後援:株式会社新建築社
 
2012年12月3日
結果発表ページと審査講評ページを追加しました。
2012年10月2日
応募登録の受け付けを締め切りました。
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応募登録の受け付けを開始しました。
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月尾嘉男(東京大学名誉教授,審査委員長)

建築設計だけではなく社会構想についても提案を要求する設計競技に多数の応募があり,昨年の東日本大震災の影響は当然として,建築設計という職能に変化が胎動していることを実感しました.「梅咲く糀谷町工場小学校」は空間設計としては十分ではありませんが,衰退しつつあるものづくりを対象にしたことで評価され,「つくもがみが繋ぐまち」は街路を中心にすることでは平凡ですが,地域の特徴を反映した提案として価値があり,「ジャンクヤード ミュージアム」は反対に,どのような地域でも実現可能な提案に意味があり,「波紋する生活の舞台」は水上に交流の場所を設定するという意表をつく構想が評価されたものです.「浮遊するシェルター」は浮遊し移動する仕組みが現代の都会生活を反映した秀作であり,「井戸端会域」は水流が地域の連携の基盤になるという発想が新鮮であり,「未来へつなげる過去の堀」は車窓からも展望される歴史遺産を活用することが評価され,「畑のえんがわ」は家庭菜園の連続が地域社会の連携を形成するという今後の時代を見通した構想でした.「めぐり めぐる 風景」は都会の課題となっている木造密集住宅地域を時間経過も提示しながら再生していく提案が評価され,「まちのふるさと商店街」は地域の商業を再生する構想を細部まで検討したことが素晴らしく,「ゴミ、メグル、マチ」は被災した地域のゴミ処理や高台移転という現実の課題を前提として,エネルギーのカスケードだけではなく,生活や人生のカスケードまで考察した提案が評価されました.「大きな屋根の下の物語」は提案が数少なかったエネルギーや情報の側面を強調した内容で,競技設計を主催する企業の視点から優秀と判断されたものです.今後も発生するさまざまな社会問題に,建築設計分野の人びとが,このような競技を契機に,建築設計の視点からだけではなく,社会計画の視点からも提案されるようになることを期待します.

山田昌弘(中央大学文学部教授)

力作揃い,かつ,ビジュアル的に美しいものが多く,審査する時間はたいへん楽しかったです.最優秀賞の「ゴミ、メグル、マチ」は,見たくないが生活上不可欠な「ゴミ」で人びとをつなぐという発想が秀逸でした.自然をそのまま活かした構成,そして,やさしい色遣いなど感心する点が多くありました.コピーも優れています.また,佳作の「井戸端会域」も,井戸端という点にとどまらず,水の流れで人びとをつなぐ点が評価できました.
つながりと言うことで,家と家の間の境界線に対する工夫が多く見られました.優秀賞の「めぐり めぐる 風景」は,家と家の間のすきまを街区としての共有をめざすもので,住んでみたいと思える街です.佳作「畑のえんがわ」も,家と家の間が畑ということが楽しいですし,惜しくも選外となりましたが,塀を棚にする(「shelfscape」),カーテンにする(「属性都市を生きる」)といったものにも興味が持てました.
他の作品も,実現可能性の高いものから,未来都市を描いたもの,具体的な町の再生をめざしたものから,空想上の空間まであり,「つながり」というテーマがいかに多様なものであるかを再発見しました.惜しむらくは,居住単位である家族を超えたつながりへの工夫という点が勝っていて,新しい家族の形といった提案が少なかったことが残念でした.

安田雪(関西大学社会学部教授)

作品にはさまざまな方向性がありました.昨今,活気がない建物や場所に新たに人工物を配置して新機能を持たせる提案.東日本大震災時の悲しみの記憶を後世に伝えようとする提案.老いや死別までをも,世代間の繋がりをつくりポジティブにとらえ直そうという提案.井戸端会議的なつながりの復活をめざす提案.学生と地域のコラボレーション.IT技術やエネルギー技術を駆使し人・物・廃棄物までをもつなげる提案.いずれも学生の力のこもった,若々しいアイデアばかりです.自分がその空間に行ってみたい,そこで誰かと会ってみたい.出会い,ふれあい,語り合い,誰かをそこで抱きしめたい.そう感じる作品を選ばせていただきました.
私は社会学者ですから,技術的なことは分かりません.現在ではまだ実現不可能な提案であっても,それらはいつか技術が可能にしてくれる,その日を待てばよい.ただ,憧憬の先にあるもの,力強く優しく,繋がりへと向かう夢を見せてくださる提案には,技術制約を超えた価値があると信じています.「ゴミ、メグル、マチ」は,高台移転という困難な課題に対して,静謐な祈りとともにたちあがる復興への意志が塔のなだらかなつながりで表現されている点が印象的でした.また,「まちのふるさと商店街」は,商店街で子どもを媒介にして,起こり得るさまざまな繋がりの可能性が緻密に描かれており,計算された素朴さにひかれました.私がいつか目にし,そこに旅したい空間として特筆させてください.応募してくださった学生さん,すばらしい作品をありがとうございました.審査委員の先生がたともども,未来へのつながりを実感できる楽しい機会でした.

貝島桃代(筑波大学准教授)

つながりは,関係性ですからそれ自体はとらえにくいものですが,社会はその関係性の上に成り立っており,建築はそうしたつながりを支える場といえるでしょう.審査では,つながりを捉えて,それを再解釈し未来にとどけるための空間として提案しているものを取り上げました.取り上げた問題とその空間的な提案のバランスがとれていたものが説得力を持ちました.最優秀賞の「ゴミ、メグル、マチ」は漁村の高台移転に伴って,新たにつくられる集落の集住のあり方を火に求めるものです.地形の勾配に熱やひとの動きを重ねています.被災地の漁村の復興計画では,かつて暮らし,今後は漁業の場となる低平地と,新たに暮らす高台をどのようにつなぐかが大きな課題となっています.この案で示されている煙は,震災後訪れた三陸の浜で冬の朝,そこかしこで炊かれていたたき火を思い起こさせました.パースに書かれている遠くの集落の煙とともに,散村の特有のつながりの姿を捉えた作品だと思います.優秀賞の「まちのふるさと商店街」は熱海のシャッター街となった商店街に幼稚園を入れる案です.近年こうした動きがみられるようになりましたが,ここでは商店街の店舗が幼稚園のひとつのクラスルームに,歩行者用道路が園庭になっているのが特徴です.またプレゼンテーションで,小さな気づきがスケッチに残されているのは目を引きました.気付きから丁寧に空間を組み立てている,実感の伴った提案になっていることを感じました.そのほか,活用されていない場所とそこにあった繋がりを再生する提案も多く見られました.京都の高瀬川沿いの材木町に古材ストック場となる東屋とその加工所をつくる「つくもがみが繋ぐまち」,大阪でいらなくなったものをストックし販売する店舗とそのデザインや加工をするアーティストやその手法を学ぶ人びとのアトリエとする小学校改修計画案「ジャンクヤード ミュージアム」,兵庫県のため池に,人とその環境に生息する植物生物の共存する木製の筏の提案「波紋する生活の舞台」,井戸水を利用する路地の居場所の提案「井戸端会域」が目に留まりました.どれも調査と提案をしっかりしたバランスのとれた作品でしたが,欲を言えば,やや空間的なデザインの強度に欠けていたように見えましたので,是非今後も案を深めていってくださればと思います.つながりを風景にする,これにより風景はどのようにかわるのか,地域や世界はどのように変わるのか,魅力的な空間によって更なる共感が生まれ,つながりも広がり,深まると思うのです.

筒井清志(株式会社NTTファシリティーズ代表取締役社長)

本コンペは,テーマが漠然としているだけに難しかったのではないかと思いましたが,いずれも甲乙つけがたい素晴らしい提案であり,選考には大変苦慮しました.
最優秀賞の「ゴミ、メグル、マチ」は,ゴミは生活における循環の証であり,さまざまなつながりをつくり出す媒体として捉え直した点が面白い提案です.ゴミを通して,ひとりひとりが自然や環境に責任を持ち,積極的に社会に関わることの重要性を提起しており,日本人としての美意識や知性に訴えかけてくれます.不自然に林立する煙突群のドローイングと,立ち上る煙のイメージが相まって,どこか遠くて懐かしい「つながりの風景」を想起させてくれる秀作です.
優秀賞については,まずひとつ目の作品「めぐり めぐる 風景」は,都心の木造密集地が抱える現代的な課題に対して,本質的なつながりを維持しながら,緑を立体的に取込むことによって,居住環境を豊かにし,同時に防災性や安全性も高めるという独創性を評価しました.ふたつ目の作品「まちのふるさと商店街」は,明るい未来の象徴として「子ども」を挙げ,コミュニティのつながりを持続的に「循環」させることが,地方都市の再生,活性化につながるという提案の普遍性を評価しました.
また,「大きな屋根の下の物語」は,ガソリンスタンドの空間的,立地的,数量的,構造的な特性に,つながりの起点としてのポジティブなストック価値を見出している点に注目しました.「都市の余白」としての屋根の上下空間の活用策や,情報・エネルギー拠点としてのネットワーク性を与えるIT・スマート化,地下タンクを活かした地域の災害時対応策など,その多角的,合理的な提案性を高く評価し,NTTファシリティーズ特別賞として選定しました.