主催:株式会社NTTファシリティーズ  後援:株式会社新建築社
 
2012年12月3日
結果発表ページと審査講評ページを追加しました。
2012年10月2日
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NTTファシリティーズ20周年記念アイデアコンペティション 
テーマ座談会

審査委員長 月尾嘉男 (東京大学名誉教授)
審査委員
 
 
 
 
山田昌弘
安田雪
貝島桃代
松原和彦

 
(中央大学文学部教授)
(関西大学社会学部教授)
(筑波大学准教授)
(NTTファシリティーズ
 建築事業本部 都市建築設計部長)
 

「NTTファシリティーズ20周年記念アイデアコンペティション」の開催に先立ち,審査委員の方々にお集りいただき,コンペの課題について,また,このコンペに対して望むことなどをお話いただきました.NTTファシリティーズからは,松原和彦氏に参加いただきました.

さまざまな分野から参加してほしい

松原  NTTファシリティーズは建築,エネルギー,ファシリティ・マネジメント,そしてエネルギーや設備の保守・運用を事業の軸としている会社です.東日本大震災以降,人びとの考え方やニーズ,社会のパラダイムが大きく変化している中,当社は創立20周年を迎えるにあたり,私たちのような会社にふさわしい,ならではの内容と方法で「社会に貢献したい」という思いから,このコンペティションを開催することとしました.

月尾  このコンペのお話をいただいた時,普通の建築設計を提案してもらうだけではおもしろくないと思いました.建築設計に限らず,幅広く手がける会社だからこそできる,社会への問題提起や姿勢の提示をしていただきたいと.たとえば,運用の段階まで含めて,どのような社会をつくりたいか,どのようなコミュニティをつくりたいかを提案してほしいと考え,そういう課題にしたいと思いました.もちろん図面に表すことができればそれでも結構ですが,図面だけでは意図を表現するのが難しいので,別途説明文で記述してもらい,社会学者である山田先生や安田先生には建物を審査するだけではなく,どういう社会を実現するための提案なのか,その意図を説明文からも審査していただこうと思いました.

松原  学術的なものを求めるのではなく,将来こういうのがあったらいいな,こうなったら嬉しいな,というような夢のあるアイデアを求めたいと考えています.そういう意味で,広くさまざま分野の方々に参加してほしいと思っています.専門家にしかわからないものより,専門分野を問わず,多くの人びとが魅力的と感じるような,示唆に富む案に出会えるといいですね.そういう意味で,発想力や構想力が必要で,かえって難しいかも知れません.多分野の方々のコラボレーションなどは大歓迎です.

「つながり」を空間で表現する

月尾  テーマについては,現在の日本の社会が抱えている問題について,空間を設計する学生にも解決方法を提示してもらいたいというのが私の基本的な考えです.格好のいい住宅をつくる,格好のいい地域社会を提案するだけではなく,建物そのものの提案が半分,空間の利用方法や維持方法の提案が半分といったような課題になるのがよいのではないかと思います.
2年ほど前にNHKが「無縁社会」という番組を放送して社会に大きな衝撃を与えました.これまで血縁から地縁,職縁から通縁と次第にコミュニティを構成する規模が拡大してきたと私たちは思っていました.それが突然,あらゆるコミュニティと縁が切れてしまう「無縁社会」に直面するという事態となり,誰にも看取られず亡くなる方が毎年何万人もいるという異様な社会が登場しました.その問題に対して,空間の形態と運用によって解決する方法を提案してもらいたいということです.外国ではなく日本の社会が直面している問題への解決策を建築,社会学など多様な分野から提案をしてもらえればよいのではないかと思います.

山田  課題にエネルギーや環境負荷という言葉を使うのもよいのでしょうが,私は人と人とのつながりが生じる「場」を表現してもらうのが課題として斬新でよいと思います.ネットワークやコミュニケーションなどを説明する時になかなか空間的に説明するのは難しいので,人のつながりが表現されるのは魅力的だと思います.偶然先ほどまである施設を存続させるかどうかという会議に出席していました.そこで私は,ある場所に建物や空間が長い年月にわたって存在していることが,人と人とのつながり,人的資本を蓄積していることにもなるので,どこか別のところに同じ施設をつくればよいわけではないと申し上げました.場所や建築は人のつながりと密接な関係があると思います.

貝島  最近の学生は歴史をあまり学ばないので,歴史を調べたり,そこから何か使えないだろうかと考え,訓練してもらうのが今後のためになるのではないかと思います.日本の都市を白紙に戻すことはできません.社会的な枠組みやつながりは変化しても空間は残ってしまうので,それを何らかの方法で未来につなげないといけない.それを課題を通して伝えたいと思いました.

安田  私たち社会学者はすぐに批判的検討ばかりしがちです.社会関係はこうあらねばならないのにこうなっているのはけしからん,という話になりやすい.このコンペではぜひ前向きで建設的なアイデアの提案がほしいと思います.できればさまざまな分野の方とコラボレーションをしながら問題解決へ向かってもらいたい.それが普通のコンペと違った,理想的な形だと思います.少し前まで私たちはつながりを「しがらみ」と捉えていました.今は「絆」という言葉が流行って「つながり」もよいイメージになっていますが,以前は地域のしがらみ,家庭のしがらみと言って嫌っていました.それが震災後に雰囲気が変わって「つながり」もポジティブな意味で捉える人が多くなりました.私は,今だからこそ社会関係の維持や形成,そして再生の支援のためのアイデアの提案を課題にするのがよいと思います.

普通のコンペとは違った案を

松原  空間のもつ経時的価値や,人・つながりと空間の関係性などを考えてもらいたい一方で,「建築空間」や「都市空間」といった言葉が課題にあれば,建築系以外の学生の皆さんが,ハードルが高いと感じたりしないか,専門分野を特定してしまうのではないか,という心配もあります.

月尾  (表現方法やビジュアルはともかく),精緻で興味深い内容の提案ならば評価されてもよいと思います.委員のご意見をうかがうと「つながり」や「歴史的視点」というキーワードが出てきました.歴史を調べるということは,現在の課題を見つめ,未来を考えることなので,テーマを「つながりの未来」にしてはと思います.つながりが希薄になった社会にどういう「つながり」を見出すのか,空間と運用の両面から考えてもらうということです.「つながり」をどのように捉えるかは,それぞれ自由に発想してもらいたいと思います.評価は分かれるかも知れませんが,家に閉じこもってネットワークで世界中とつながっている社会の提案があっても構わないと思います.

貝島  おもしろいと思いますがひとつ危惧するのは,空間化できない部分が多くなってしまう可能性があります.たとえば携帯電話ひとつですべてが解決することになってしまうと,なかなかアイデアコンペとして審査するのが難しい面もあります.通信プログラムを書かれても読み解くことは難しいですよね.

月尾  「つながり」という言葉を課題に使うとソーシャルネットワークサービスを使う案も出てくるでしょう.また,ゴーグルをかけて仮想社会に生活し,世界のどのような場所のどのような家でも気分を変えて住むことができ,友達はネットワークを通じて世界各地から遊びに来る,というようなバーチャルリアリティを使った提案をする人がいる可能性は十分にあります.それを不適とするか,おもしろいとするかは議論が必要で,ここで想定することは難しいのですが,物理的な空間に制約しないほうがよいと思います.

山田  そういうのばかりだと困りますが,「つながりの未来」という課題はよいと思います.

安田  私もそれでよいと思います.建築系の学生以外でも課題をイメージしやすいのではないでしょうか.

月尾  学生も審査委員の構成を見て,普通のコンペとは違った案をつくると思います.審査委員には建築家がひとりしかいないのですから,工夫してくると思います.

松原  私もそのテーマは面白いと思います.新たな空間をゼロから構想するのは素晴らしいですが,自分が住んでいる家やまち,家族や友人などとの関係において,自ら経験してきたことから発想して,将来「つながり」がこうなったらいいな,それを表現してみよう,という考え方やアプローチもあると思います.そういう身近なところからのアイデアも評価したいですね.

山田  そうですね.たぶんどちらの案も出てくると思います.自分の家を考えて家族のつながりを大切にする案も出てくれば,月尾さんがおっしゃるようにバーチャルで世界につながっているという案も出てくると思います.

安田  審査をするのが楽しみですね.

貝島  異分野とのコラボレーションも歓迎しますし,未来をイメージした具体的な提案を期待します.

(2012年6月5日,NTTファシリティーズにて 文責:『新建築』編集部)