審査委員
審査委員長
隈研吾(くま・けんご) 1954年神奈川県生まれ/1979年東京大学工学部建築学科大学院修了/1985〜1986年コロンビア大学客員研究員/1990年隈研吾建築都市設計事務所設立/2001~2009年慶應義塾大学教授/2008年KUMA & ASSOCIATES EUROPE設立(パリ、フランス)/2009年~東京大学教授 |
今回のコンペはひとつの建物の設計ではなく、群としての設計であり、その集合体としてまちができあがります。また、コンペ区画は道を挟んで設定されています。住宅が個もしくは群として隔たりをもつのではなく、周辺とうまくつながっていくデザイン、コンセプトが大切になります。地方都市のどこにでもありそうな敷地ですが、注意深くまちを観察し、まちの特徴をとらえた、この場所でしかできない提案を求めます。
今回のコンペは、若手建築家9組を選び、さらにその案をすべて建設し販売するという、世界的に見ても例をみないコンペです。単に住む家ではなく、そのまちに住む人びとの営みを考えた案を期待しています。
審査委員
乾久美子(いぬい・くみこ) 1969年大阪府生まれ/1992年東京藝術大学美術学部建築科卒業/1996年イエール大学大学院建築学部修了/1996〜2000年青木淳建築計画事務所勤務/2000年乾久美子建築設計事務所設立/2011〜2016年東京藝術大学美術学部建築科准教授/2016年〜横浜国立大学大学院Y-GSA教授 |
だからか敷地の形もちょっと普通ではなくて、プロのデベロッパーはまず買わないだろうと思うのですが、西条市の中心地にぽっかり空いていた土地で、幹線道路に辛うじて面していて、中央に川も流れていてというように、周辺環境が整っています。そういう土地に可能性を見出したセンスのよさを感じました。不整形な土地だからこそ、いままでにない何かを生み出してくれるような潜在力を感じています。
応募者の方に期待したいことについてですが、美しい水や山と海に囲まれた環境など、西条市には魅力に溢れているので、とにかく自分の目で見て、足で歩いて、いろいろ調べ、西条市の可能性を体得した上で案をつくっていただきたいと思います。そうでなければ、このコンペに応えることはできないでしょう。また「糸プロジェクト」自体に、時間をかけてつくりあげるというコンセプトがあるので、提案も、作品性というよりは、粘り強い何か、未来をつくる何かを感じる力のこもった提案をしていただきたいと思います。
馬場正尊(ばば・まさたか) 1968年佐賀生まれ/1994年早稲田大学大学院建築学科修了/博報堂、 早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年Open A設立/ 「東京R不動産」運営/2008年〜年東北芸術工科大学准教授/2016年〜同大学教授 |
地域性については、自噴水の「うちぬき」があり、敷地中央を流れる御舟川(みふねがわ)もたいへんきれいです。南に石鎚山を望み、北に瀬戸内海を抱えて、美味しい食べ物もたくさんあります。そういう意味で西条市はとても魅力があるのに、街に入るとその魅力がバラバラに存在しているように感じて、ひとつの物語に見えない。それらを十分に編集すれば、街の人にも外部の人にもそのよさが伝わり、住宅のあり方も見えてくると思います。
敷地を見学したのは偶然にも西条祭りの日で、30軒の住戸で1個の「だんじり」を所有しているというシステムに驚きました。それが脈々と残っている西条市ならではのコミュニティをこの住宅地で継承してほしいです。
一般性でポイントになってくるのは、敷地境界の設定のあり方です。日本の住宅は塀が巡らされ、そこに自分中心の家が建つということが繰り返され、それが住宅地の風景を形成してきました。必ずしも僕らはそれをハッピーだと思っていないのではないでしょうか。このコンペでは、接道の問題、敷地の問題、隣棟との位置関係の問題、密度の問題などを見つめ直すことで、今までの日本の住宅地で見たことがない風景をつくることや、宅地開発のエポックになる可能性があります。皆さんの提案によって、そのブレイクスルーを発見できたら……、それを楽しみにしていますし、その端緒になるようなものを選びたいと思います。
馬郡文平(まごおり・ぶんぺい) 1965年東京都生まれ/1990年工学院大学工学研究科機械工学専攻修士修了/1990〜2009年竹中工務店設計部設他/2003〜2009年東京大学生産技術研究所野城研究室特任研究員/2006年FactorM設立/2009〜2011年同研究室産学官連携研究員/2012年東京大学建築学工学博士取得/2012年~東京大学生産技術研究所馬郡研究室特任講師 |
ですから、提案される方々には、きれいなものをつくるというよりも、敷地をしっかり読み込み、歴史、文化、社会性を織り込んだ提案をしてもらいたいと思います。周辺環境を見ると、とてもきれいな水があり、山と海が身近にあり、アドバンテックのソーラー発電で電気を賄うなど好条件がそろっているので、いろいろなものを味方につけて設計してほしいですし、設計を楽しんでもらいたいとも思います。
また、1棟ではなく、10棟をまとめて設計できるというのも、やりがいのあることだと思いますし、また、逆にいえば、建築家としての持てるすべての能力を発揮しなければならないものかもしれません。自らが築き上げてきたセンス、ヴォキャブラリー、技術を出せるだけ出して臨んでほしいと思います。どういう提案が出てくるのか非常に楽しみにしています。
山名正英(やまな・まさひで) 1960年愛媛県生まれ/証券会社などを経て、1995年株式会社アドバンテックを設立/国内外で半導体製造装置部品等の製造メーカーとしての実績を積みながら、環境事業にも着手し、再生可能エネルギーの発電所を全国で展開。そのネットワークを活かしながら、今後は地域再生、活性化を目指し、まちづくり事業をスタートする |
住宅ということについては、当然住みやすいというのが一番ですが、外観だけきれいにつくって、10年もすると魅力を失ってしまうという家が最近多いように感じますので、長く住むというのを大前提にしていただければと思います。年数が経てば経つほど魅力を増すものになってくれたらうれしいです。
それから最後にひとつ。家というのは「帰るところである」という原点を考えてもらえればと思います。人生は山あり谷あり、私のようなおじさんでも、お母さんでも、子供でも、外に出れば嫌なことがたくさんあります。でも嫌なことがあったときに、「帰りたい」と思える家をつくってもらえれば有難いです。 みなさんの提案に期待しています。