コミュニケーションツールとしての空間

インタビュー:山口広嗣(竹中工務店) 宮下信顕(竹中工務店) 聞き手:佐藤英治(イーエスアソシエイツ)

AGCモノづくり研修センター

設計 竹中工務店

平面図
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山口

佐藤氏・山口氏・宮下氏
左から佐藤氏,山口氏,宮下氏.

この建物は,旭硝子の技術を人から人に伝承するための研修機能と,実際にモノをつくる,メンテナンスするための技術を実習する実習機能が入った施設です.いくつかの地域に分散する工場では,ローカライズされた技術が蓄積していました.それらをインターラクトすることがこの施設には求められ,人と人が出会い,さまざまな情報を共有することができる場の創出が要望されました.

宮下

3階の喫煙室.カラフルな壁と照明や家具が,外部から見通せる.壁もホワイトボード化されている.
3階の喫煙室.カラフルな壁と照明や家具が,外部から見通せる.壁もホワイトボード化されている.

全国から人が集まり,毎日多くの人が利用するため,施設内のリフレッシュ空間の充実も課題でした.できるだけ眺めがよく,建物の中でもよい場所につくられることが求められました.喫煙室も各階に設けられています.クライアントはこのリフレッシュ空間をとても重要視していました.設計の調整をする中で,主要な居室面積を確保しようと,リフレッシュ空間が小さくなった時,喫煙室こそ,初めて本音で会話ができる場所なのだから,小さくしないでほしいと言われたのです.研修中は,気が抜けないフォーマルな発言が求められますが,本当の議論や本音の会話は,研修合間の休憩時間に,喫煙室でぽつぽつ話されることに着目し,喫煙空間をできるだけ豊かにして,人とのコミュニケーションが生まれるような仕掛けを提案しました.

4階喫煙室.階高が4,500mmの空間で,換気回数は1時間に40回.写真右側の壁際ドア下から新鮮な空気を取り入れている.
4階喫煙室.階高が4,500mmの空間で,換気回数は1時間に40回.写真右側の壁際ドア下から新鮮な空気を取り入れている.

もうひとつの要望として,喫煙者と非喫煙者が一緒にいられる場所がほしいと言われました.われわれはガラスで区切るだけでなく,コミュニケーションが生まれる場所としてきちんと同居させることを考え,たとえば,4階の階高が高いフロアを利用して,煙を天井の方に蓄煙し,人のいる下の空間は新鮮な空気を溜めて空気環境を変えてみました.また,喫煙室にかわいい家具や照明を入れたり,色彩を豊かにして他の居室と差別化することで,たばこを吸わない人も,気軽に入って楽しめるような環境をつくりました.もうひとつの試みは壁のホワイトボード化です.喫煙室の壁はどうしても汚れやすいので,ホワイトボード化することで,人が書いたり消したりする行為によって,壁の汚れも拭き取られる仕掛けをつくっています.ここで用いた素材は,旭硝子の製品で四フッ素化樹脂フィルムをクロスにラミネートしたもので,住宅のキッチンパネルなどにも使用されています.

佐藤

4階の喫煙室は,新鮮な空気をドア下のスリットから取り入れて,天井に多めの排気口を取っていますね.各喫煙室のカウンターの配置がもう少し喫煙する行為に即しているとよいなと思いますが,喫煙室自体は明るくて眺めもよいし,また,廊下から見通せるオープンな配置としている.そして見える居室をインテリアの工夫によってたばこを吸う人も吸わない人も気軽に入れるスペースとした点は,ひとつのスタイルとして面白いと思います.

Solutions
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Solutions
ホワイトボードになっている壁面

建築概要
AGCモノづくり研修センター
設計・施工 竹中工務店
所在地 神奈川県横浜市鶴見区弁天町2

山口広嗣(やまぐち・ひろつぐ)
1958年東京都生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業/1983年同大学大学院修士課程修了後,竹中工務店/1997年〜2003年 Takenaka Corporation USA/現在,同社設計部設計課長

宮下信顕(みやした・のぶあき)
1972年長野県生まれ/1995年東京理科大学理工学部建築学科卒業/1997年同大学大学院修士課程修了後,竹中工務店/現在,同社設計部課長代理設計担当